今週は、徐福伝説の起源です。

数百年、時には千年以上も語り継がれてきた伝説が、忘れ去られた古代史を伝える可能性を捨て去ることはできない。そう考えた時、これまで日本中を巡る過程で、ある伝説に幾度も遭遇したことを思い出します。それが徐福伝説です。

徐福伝説の起源は、古代中国をはじめて統一した秦の時代に遡ります。秦の始皇帝に対して、「東方の海上の三神山に不老不死の霊薬がある」と申し出た徐福が、始皇帝の命を受けて3000人の童男童女、さらに多くの技術者、財宝、五穀の種を持って東方に出立したとされる伝説です。
三神山とは、中国の伝説における蓬莱・方丈・瀛洲から成る三つの山のことで、仙人が暮らし、そこに行けば不老不死の薬が手に入ると信じられていました。

なぜ、この伝説が日本人のルーツに関わってくるかと言えば、徐福一行が到達した先が日本だからです。

徐福伝説は、はやくも中国最古の歴史書『史記』にも登場しています。亡き父の遺志を継いだ司馬遷が史記を完成させたのは、紀元前91年頃と考えられていますが、この時代は古代中国の前漢(紀元前206-8年)という新しい時代にあたるため、徐福はそれ以前の時代の人物です。

始皇帝の在位は紀元前221-紀元前210ですから、史記が制作された時代から見ると、徐福の話は1世紀以上の隔たりがあります。また当時は、秦から漢へと皇朝の覇権が移る混乱もあったため、司馬遷の時代には既に古い伝承となっていたことが想定されます。

史記で徐福の説話が登場するのは、「秦始皇帝本紀」に3カ所、「淮南衡山列伝」に1カ所の計4カ所です。「本紀」とは皇帝の事績を年代順に記す編年法によって作られた記録であり、「列伝」とは特定の個人や集団の伝記のことです。

徐福は本来「徐市」と表記し、「じょふつ」と読みますが、後代に現在の呼称が一般化しました。史記には「斉人の徐福」として登場することから、古代中国の斉の出身者だったことがわかります。
斉は黄河下流の現・山東省一帯を支配していた国で、彼自身は山東省臨沂市周辺の出自と考えられています。斉は紀元前221年に秦によって滅ぼされましたが、秦による中国統一後も、その地域の人を「斉人」と呼ぶ慣習が残っていました。斉の山東半島は、渤海と黄海に突き出た位置にあり、海に面していたことから漁業・製塩業が盛んな土地でした。

土地柄、斉人は海の観察に長けており、そこから豊かな海の信仰が生まれています。中でも、徐福と関わってくるのが「方士」です。
方士とは「方術之士」の略称で、医学・養生を担う「方技之士」と、天文・占卜を担う「術数之士」の二種類があり、医術、薬学、天文暦算、占卜、気功導引、錬丹術といった幅広い「方術」を持つ知識技術者集団のことを指します。

方士は渤海を囲む二つの地域で主に活動しており、山東半島側の斉と、遼東半島まで勢力をのばしていた燕を軸に各地を巡っていました。見逃せないのは、この方士を育んだのが土地の風土だったことです。風土に徐福伝説を読み解く鍵があります。

斉や燕の方士は、渤海に出現する蜃気楼を目にする機会があり、海上に浮かぶ壮大で神秘的な蜃気楼の姿から、いつしか「海の彼方に何かがある」と信じるようになります。
彼らはこれを単なる自然現象で終わらせず、渤海に出現する蜃気楼は仙人の住む三神山として解釈されていき、そこにたどり着けば不死の薬を得られると説いていました。

元々、彼らは神や鬼神を降臨させ、その意思を伝えて呪術や祭祀を行う専業集団の巫祝であり、神楽や祝詞などを駆使して異界と交信する人々でした。つまり、渤海の彼方には、人間の住む世界とは異なる仙郷が想像されていたのです。

また、斉が古代中国で有数の知的拠点を有していたことも見逃せません。紀元前356-前320年に在位したとされる斉の威王は、諸子百家と言われた当時の優れた思想家たちを斉に集結させて研究機関を作り、多額の資金を出して学問・思想の研究にあたらせています。
こうして海に面した斉には数百から千人規模の学者が集い、自由に議論する豊かな土壌が育まれていたのです。この固有の環境の中で、方士は民間信仰の次元を脱し、優れた知的集団へと鍛え上げられていきました。

事実、方士の中心拠点だった斉と燕では、歴代王からの厚遇を受けており、彼らの説く「東方の海上の三神山に不老不死の霊薬がある」という信仰と王の関係は、そのまま徐福と始皇帝へと集約されていきます。つまり、この信仰は怪しい妄想ではなく、知性によって裏付けられており、時の王による庇護も受けていたのです。

海の民が創出した伝統は、紀元前221年に秦が古代中国を統一して以降も続き、東を仰ぐ渤海近郊で生まれた方士の存在は、後に治世の安泰を祈る皇帝祭祀で活躍する道を拓きます。

やがて、方士の伝えた信仰を歴史へと変える人物が、この文脈から登場します。
それが、日本と縁のある徐福だったのです。

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■ 国つ神計画研究所 Vol.5【2026年4月4日発行】
■ 著者Webサイト:https://jihanjinko.com

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